大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和31年(タ)11号 判決

原告 小川妙子

被告 リチヤード・デール・ヒユセー

主文

原告と被告を離婚する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

一、原告は、被告が北米合衆国軍人として日本国に駐留中之と知り合い、昭和二十七年三月十八日戸籍吏に届出て同人と適法に婚姻をなし、爾来名古屋市北区柳原町二丁目六番地に居をかまえ同棲して夫婦生活を営んで居た。

二、原、被告は昭和二十八年六月三十日名古屋市瑞穂区片坂町二丁目五番地に転居したが、その直後の同年七月十日被告は帰国し同年八月三十一日本国にて除隊した後は、原告に対して何等扶養をなさず、同年十月二十八日に最後の手紙を原告宛に差出しただけでその儘杳として消息不明である。

三、原告は最後の方法として北米オレゴン洲ポートランドの日本国領事館を通じて、被告の父につき調査したところ、被告は除隊後ポートランドにおいて労働をしていたが、その後東部へ転住しているとの噂のみでたしかな住所は不明である。

四、被告は、前記帰国に際し、原告を北米合衆国へ呼び寄せて夫婦生活を営む旨約束したのであるが、これを履行せず、この儘では原告の渡米も困難であり、被告も又原告と再び夫婦生活を営む意志なきものと思われ、原告は昭和九年四月十二日生れの若い女性であり、この儘では生活を営み得ず、又将来の再婚も不能である。よつて本訴により離婚を求める。

旨陳述した。〈立証省略〉

被告は、所在不明につき当裁判所は公示送達により訴訟書類を送達した。

理由

被告の国籍が北米合衆国にあることは、原告提出の全証拠により明であるから本件離婚についての準拠法は、法例第十六条により夫の本国法たる北米合衆国の法律である。しかるに北米合衆国は法例第二七条第三項に云う『地方に依り法律を異にする国』であることは公知の事実であるから、その国に属する人民たる被告については、同条同項により『其者の属する地方の法律』が適用される。而して北米合衆国においては、離婚事件については、一般に夫の住所(ドミサイル)のある州の法が適用されるのであるが本件においては、被告の住所の所在する州は不明である。従つて本件は結局準拠法たる外国法の内容を知り得ない場合として条理に従つて裁判せざるを得ない。

ところで、原告提出の全証拠によれば、原告主張の如き事実が認定できるのであつて、かかる事実は、条理上離婚を命ずべき場合に該当するといえる。よつて原告の請求を正当として認容し、民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 植村秀三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例